同い年の元同僚は、48歳で亡くなった。
亡くなる前に話してくれたことは、今でも、もぐりこんだ針のようにチクっと心を刺す。


 働き盛り。的確・迅速に多くの仕事を切り盛りできるのでどんどん仕事が舞い込む。依頼されれば断らない。忙しくても忙しいと思わずまい進して、体調が思わしくなくても付き合いの飲み会のアルコールが残っているせいだろうぐらいに思っていた。
 夏のとある日、ただの体調不良と思っていたが、猛烈な痛みにとうとう我慢できず病院に行ったら即入院。もうちょっと遅かったら命はなかったですよ、と言われたという。がんだった。


 数か月間の治療ののち、治まったので普段どおりに近い生活に戻ることができた。とはいえ、体力も落ち、仕事に復帰できるほどではない。だが、考えることだけはよくめぐる。あらためて、自分のこれまでを振り返ってみたという。


「学生時代、スポーツも学業もがんばってやってきた。
仕事も精いっぱいやってきた。依頼される役目もやりがいがあった。
この病気で、死ぬかもしれなかった。今は治まったが、またいつ再発するかわからない。」


「俺は、そう遠くなく死ぬかもしれない。
俺は、俺のために、何をしてきたのだろう。
死ぬ前に、やりたいことをやろう。」


 彼が選んだのは、クルーズトレイン(観光に特化した周遊型豪華寝台列車)での旅。
クルーズトレインの先駆けである「ななつ星in九州」で旅をしてきたのだという。


 仕事でもなく、思い出巡りでもなく、
興味があって楽しいと思えることを選んだのだそうだ。
鉄道が好きだったことは、しばらく一緒に働いていたけれど知らなかった。
いや、おそらく、そんな話になっても聞き逃していたのだと思う。せっかく話してくれていただろうにもったいなかったと思う。


死ぬ前にしたいこと。
自分だったら何だろうか。
それを、身近な人は、知っているだろうか。分かってもらっているだろうか。


死ぬ前にしたいこと、は、ほんとうにしたいこと、なんだと思う。
自分自身、それが何か、気づいているだろうか。
思い描いてみたい。
身近な人に伝えておきたい。

彼が気づかせてくれた。